Weird Magic『Ulu』(Beer On The Rug)

ベルギーのプロデューサーの、この名義では初となるフルレングス。基本となるスタイルはブレイクビーツIDMだが、異物感のある奇妙なジャケットのイメージ通りにところどころで謎のサウンドが顔を出す。その代表が1曲目の「Mjolgon」で……なんだろう、猿の鳴き声?と奇妙な電子音が大きくフィーチャーされミュータントな印象が出ている。しかしこのミュータント感を期待すると逆に肩透かしをくらう程度にはかっちりと作り込まれたアルバムでもあり…見た目の割に大人のバランス感覚で編まれた充実作。

Lost Desert『Heterogen Infiltration』(Beer On The Rug)

1989年にリリースされたフランスのバンドの自主製作盤のリイシューらしい(脈絡のなさに驚く)。内容は女性ボーカルのダークなニューウェーブ~ポストパンク。ボーカルのパフォーマンスはクールというか平熱感があるが楽曲のアレンジは充実しておりバンド自体の熱量も高い。シンセは曲ごとに多彩な音色を披露し耳を楽しませてくれる。ドラムなどたまにモタるところはご愛敬。個人的にはアッパーでかっこいい曲よりも#3や#7の、出口のない迷路をさまよっているかのような陰鬱な楽曲がよく嵌まっていると思う。

Orthodontrix『scarcity』(Beer On The Rug)

約一年ぶりの二作目。曲名はすべて「i」という一人称から始まる文で統一されており、音楽性と合わせて抽象的なストーリーを感じさせる。サウンドは変わらずマッシブな質感のエレクトロニカ、あるいはスタジアム向けEDMといった感じ。前作にはなかったインタールード的な小曲の存在が象徴的だが、曲を跨いだ大きな流れを作ろうという意識があり、それが聴き手にアルバム単位での聴取を促している。明確に山場として構成されている7分超えの2曲もいいが、神聖な空気がデジタルに歪んでいく印象的なエンディングも良い。

Traxus『Martian Ayre』(Beer On The Rug)

どこか寂しさを感じさせるドット調のアートワークが印象的。サイバーパンクというタグや曲名などからなんとなくSFな世界観が浮かぶ。内容はゲーム音楽っぽい機能的なシンセポップで、中盤ではモロにチップチューンなスタイルも現れる。#7~#9は特にゲーム音楽っぽい(『洞窟物語』を思い出したり)のだが、同時発声数が絞られる故のメロディードリブンな構造がそう感じさせるのだろうか。#12「I'm 8 Today」はMúmオマージュ? 序盤はシリアスだが中盤から子供らしさが出てきます。アーティストのB(中略)NYP

Duncan Malashock『Interiors, Vol. 1』(Beer On The Rug)

ニューヨークのソフトウェアエンジニア兼ミュージシャンの作品。2~3分の人懐っこいシンセポップが4曲入ったEPサイズ。少し懐かしい感じのするキラキラしたシンセの音色と親密なメロディーは相性がいい。リズム的に入り組んだところもなく、どこまでもメロディー中心にアレンジされているため非常に聴きやすい。エレクトリックなサウンドとゆったりとしたテンポはどちらかといえば夜のリラックスした時間にフィットする。個人的にはゲーム『VA-11 Hall-A』のサントラを思い出す。本作が嫌いな人はあまりいないと思います。

VRTUA『Loud Formations』(Beer On The Rug)

SEGAメガドライブジェネシス)に搭載されているFM音源をエミュレートしたビビッドな音色が特徴のエレクトロニカサウンドはもちろん楽曲もゲーム音楽に影響を受けた機能的なもので、ゲーム音楽のファンは抗えない音楽だろう。#2「Theia」では(おそらく)ベースとなる楽曲を作った後に加工し、ゲームにおけるバグ現象を音で表現している。ハイライトはヴェイパーウェイヴを意識した?タイトルの#5「斜め」~#6「Orbital」の流れ。現在は本名をもじったBobby Speakerという名義でも活動中。

AL-90 / Dx2ov『Rare Tpax』(Beer On The Rug)

ロシアのアーティスト二人のスプリット作品で、AL-90の7曲の後にDx2ovによる8曲が続けて収録されている。どこかくぐもった音の響きとアングラな雰囲気を共通要素として、AL-90は硬派な、Dx2ovはフリーキーなテクノを披露。おもしろいのは後者で、サンプリングを用いてBeat Detectives的な雑多な感性を見せつける。展開はラフでエフェクト処理は生々しく、スクエアなリズムを持ちながらも強い生命力を感じさせる。同じジャンルでもここまでテイストが違っていいのか!と聴き手を驚かせる貴重なスプリット。