CVLTS『aera』(Beer On The Rug)

現時点で最新のリリースは主催者によるレーベル4作目。他レーベルからぽつぽつとリリースはしていたが、BOTRでのリリースは実に6年半ぶり。6曲入りの約15分。ニューエイジと朴訥なテクノの中間のような音楽性。スタイルのシンプルさは今まで通りだが、今作では珍しくギターが登場しない。ウワモノの使い方的に近いのはIDMで、#6「zip」ではWarpA.I.シリーズを思い出したりも。特にテクノ寄りの楽曲で顕著だが、イントロもアウトロもなくぶっきらぼうというか…曲の簡素さも含めてスケッチのような印象を持つ。

Various Artists『Wind Rose 神龍雀舞』(Beer On The Rug)

レーベル初?のコンピレーション。比較的最近BOTRからリリースしたアーティストと新規のアーティストが半々ずつの計15曲。曖昧なエレクトロニカニューエイジブレイクビーツが主体で別段ヴェイパーウェイヴは出てこない。「神​龍​雀​舞」という中華?日本?なタイトルらしく、ときおりエキゾチックなサウンドやフィーリングが表れる(#4、 #7、#14あたりが顕著)。なので……作品のイメージとしては、「サイバー空間に再現されたアジアの街並みを散歩するときのBGM」という感じです(なんだそれ)。エレクトリックな音の質感は全体で共通していて、その上で多様なスタイルの楽曲が現れるので、エレクトリックな音が好きな聴き手には広くおすすめできる。全体のクオリティは高い。 #11のRhucleによるドローンアンビエントで流れを一度リセットしてからは終わりのシークエンスに入る。#13のTelemachusの過剰にクサいノリ(誉め言葉)は扱いに困っただろうが、作品全体のエンディングの一部としてはよく嵌まっている。全体に流れがよく練られた良質なコンピレーションだと思います。最初と最後の曲のチョイスは機能性の観点からかなり優れていると感じる。

Jung Deejay『7 Sketches For Akai Sampler』(Beer On The Rug)

Jung DeejayはニューヨークのRandy Ribackのソロプロジェクトらしい。2022年10月現在、既に作品が取り下げられており、自分の検索範囲では作品をフルで聴く手段がなかったのでBOTRのサンクラに上がっている2曲のみを聴いた印象を述べる。滑らかなドローンに包まった機能的なテクノ。Terekke『Plant Age』や、レーベルならSUEDなどに通じるクラシックなIDM風味がある。ぶっちゃけ好き。当時はなぜか8-Bit版もリリースされていた。曲名の後ろに付けられている単語の意図は謎(豆腐? 怪獣?)。

Leedian『One』(Beer On The Rug)

愛媛出身の多作なプロデューサーによる、ぶっきらぼうなのか潔癖なのか分からないジャケットの作品。7曲約20分の不定形なエレクトロニカアンビエント。リズムやメロディーの要素は比較的薄く、シンセの自在な音色の変化で聴かせるスタイル。伸びたり縮んだり膨れたり萎れたり、常に変化し続けるシンセは奇妙な生命体のようでもある。楽曲はかっちりとした形を感じさせず、どちらかと言えばライブパフォーマンスのような印象。物理的な振動をイメージさせる少しざらついた音色は好みが分かれるかもしれない。

Saturn's Daughter『MT4M』(Beer On The Rug)

多くのレーベルを股に掛ける超活動的なJordan ChristoffとMichelle MostacciのデュオのBOTRデビュー。メロディーがほぼないストイックなループを、サウンドを加えたり変調させたりしながら繰り返し続ける催眠的なミニマルテクノ。大枠となるループ自体は変化しないので、聴いていると自然と細かなアレンジ部分に意識が向く。それはミクロの世界にゆっくりとピントを合わせるような新鮮な体験だ。スタイルで言えばMove D & Benjamin Brunnが近いと思う。歌という概念を知らない宇宙人が奏でる音楽のようなイメージ。

Nike_Vomita『NIGRA EP』(Beer On The Rug)

バルセロナのプロデューサーの作品。ウィッチハウスやニューエイジグリッチなど多彩な音楽性を窺わせるが、中心となるスタイルはおそらくIDMで、時にはモロにAutechreを思わせる場面も。強迫的な「NIGRA_THM」を除けばそこまでフィジカルに訴える感じもなく、サウンドの細かさ・忙しなさを踏まえると、(音楽に身体の動きが追いつかない故の)まさに頭の中で踊るための音楽と言える。音の密度が上がりすぎるとエクスペリメンタルな味も出る。現在REWORKバージョンが自身のBandcampで公開されている。

視聴:https://soundcloud.com/nike_vomita/sets/nike-omita-nigra-ep-promo-beer

CAMERON EVERETT『Purest Realms』(Beer On The Rug)

PLAYBOYのラビットヘッドと太極図を組み合わせた奇妙なイラストが目を引く5曲入りの約15分。輪郭のぼやけたエレクトロニクスにクールなボーカルが乗っかるR&Bクラウドラップ。1080p本の読者にはMagic FadesとYoung Braisedの中間と書いて伝わるか。でなければ初期のDrake。ボーカルはどちらかといえばジェントルでヤンキー感はない。薄靄のようなアンビエンスと滑らかな質感のシンセがムーディーな空気を演出する。全体に高品質だが、コード展開に一捻りある#4「whateverthisis」に特に惹かれる。