2011

Macintosh Plus『Floral Shoppe』(Beer On The Rug)

VektroidのBOTRからの2作目。ノスタルジーを飛び越え、いよいよ意味不明な領域へと突入したアートワークと曲名が目を引く。内容は80~90年代のR&B、AORをサンプリングし、ピッチを変えたりループさせたもの。ボーカル部分も普通にサンプリングして使っている…

Dolphin Tears『Reflections On Waterfront Property』(Beer On The Rug)

The Arcade Junkies名義では『Tago Mago』のC面D面のような自由で放埓なジャムが展開されていたが、この名義ではシンセを主体としてより鎮静的・瞑想的な音世界が探求されている。同名義ではBOTR以外からもいくつかの作品をリリースしており、どうやらニュー…

Napolian / Computer Dreams『S/T』(Beer On The Rug)

ロサンゼルスのプロデューサーNapolianと、Midnight Televisionの新名義によるスプリットで、それぞれが6月にリリースしていた作品からの音源をまとめている。前者はハードウェアの音色が耳に心地いい濃密なエレクトロ、後者はMidnight~の手法を洗練させよ…

Laserdisc Visions『New Dreams Ltd.』(Beer On The Rug)

Vektroidの変名によるリリースで、ヴェイパーウェイヴというジャンルの代表作のひとつ。Midnight Television同様に短いループを繰り返す小曲の連続で成り立っているが、ムード&懐古の方向性(というかサンプリング元)はやや異なり、あちらが深夜のテレビな…

C V L T S『Theta Distractions』(Beer On The Rug)

レーベルの設立者であるC V L T Sの初のリリース。瞑想的な、エレクトロニカとクラウトロックの中間のような音楽性。キーボードとギターを軸に宇宙的な音空間がゆっくりと形作られていく。曲間の繋ぎが滑らかで、また全体でも20分に満たない尺なのでさらりと…

World Series『Episodes Of El Niño』(Beer On The Rug)

エルニーニョとは赤道付近の太平洋の海面水温が高くなる状態が長期間続く現象のことだが、その名を冠した今作にはどこか温暖な気候が似合うような朗らかな空気が詰まっている。基本的にはCasino Gardensとも共振するローファイなギターポップだが、こちらは…

Midnight Television『Midnight Television』(Beer On The Rug)

「ネオンで描かれたアメリカの地平線」のようなアートワークが印象的な一作。冒頭のけばけばしいギターが象徴的だが、やや時代を感じるサウンドとムードで、それは前述のアートワークと相まって強力なノスタルジーを醸し出す。数秒~十数秒の短いループを無…

The Arcade Junkies『Dinosaur Brain』(Beer On The Rug)

実はDolphin Tearsと共に『Casino Gardens』のフレーバーテキストに登場していたThe Arcade Junkies(DiscogsやRYMでは同じアーティストの別名義とされている)。30分弱の長尺のトラックが一つだけというミックステープ的な構成で、その内容は複数のジャム音…

Casino Gardens『Casino Gardens』(Beer On The Rug)

レーベルからの一発目ということで気合いが入っているのか、ストーリー仕立てのちょっとした文章が付いている。構図としてはCASINO GARDENSという施設のCMにギャングが割り込んできた、というようなものらしい。そして実際の音源の方もギャングがとある通信…

山本精一『ラプソディア』(P-Vine)

『プレイグラウンド』に引き続き千住宗臣(ドラムス/パーカッション)とのデュオ体制で作られた本作。中心に「うた」があるのは変わらないが、それを支える、各楽器の生み出すグルーヴが格段にパワーアップしている。リズム隊だけでもいつまでも聴けるほどな…

坂本慎太郎『幻とのつきあい方』(Zelone Records)

ゆらゆら帝国解散後にリリースされたバンドのフロントマンのソロ作。『めまい』~『空洞です』のAOR・シティポップ路線をより軽やかに・ミニマルに昇華させたような音楽性で、演奏のテンションの低さ・グルーヴの隙間の多さから、まるで幽霊が演奏しているの…

鴨田潤『「一」』(カクバリズム)

イルリメ名義でポップなヒップホップを展開していたアーティストの本名名義の作品はミニマルな構成の弾き語り作品となった。軽やかなフロウを纏った、歌と語りの中間のようなボーカルが身近でパーソナルな世界を描写する。その風情はさながら高田渡の現代版…

Washed Out『Within & Without』(Sub Pop)

プロデューサーにDeerhunterやAnimal Collectiveの作品を手掛けたベン・アレンを迎えて制作されたフルアルバムは、よりアンビエントの色を増し、チルアウトに特化した内容となった。解像度を増したシンセのひんやり・ふわふわした音色に包まれるとまるでプー…

Tune-Yards『w h o k i l l』(4AD)

ベースとドラムが主成分のパーカッシブで暴力的なグルーヴを、さらにパワフルでリズミカルなボーカルが乗り回す、原始的なパワーに満ちた作品。Merrill Garbusのボーカルは例えばジャングルで生まれ育ったビョークのようで、野性的な魅力に溢れている。2011…

Sepalcure『Sepalcure』(Hotflush)

MachinedrumことTravis Stewartと、Braille名義で活動するPraveen Sharma二人によるユニットの作品。『Room(s)』にジュークの苛烈さの代わりにエレクトロニカ/IDM由来の抒情性を加えたイメージで、言うなれば『Crooks & Lovers』とのあいのこといった印象。…

Sandro Perri『Impossible Spaces』(Constellation)

カナダはトロントの重要人物による2ndアルバム。ホーン・セクションやパーカッション、エレクトロニクスなど多様な楽器をおおらかでトロピカルな感性でまとめあげる。本人のボーカルやソングライティングも優れているが、多くのプロデュース業/ミックス業を…

Royal Headache『Royal Headache』(R.I.P Society・What's Your Rupture?)

シドニー出身のバンドによる一枚目。ガレージ・パンクと60年代のポップスを融合させた楽曲をソウルフルなボーカルと切れ味のあるアンサンブルで軽快にかっ飛ばす。3分を超える楽曲はなく、とことん潔い。とにかく一度「Surprise」という曲を聴いてみてほしい…

Roman Flugel『Fatty Folders』(Dial)

Alter EgoやSoylent Greenなどの複数の名義で多くの作品を発表してきたアーティストによる、初の本名名義のアルバム。オープニングトラックである「How To Spread Lies」が象徴的だが、エレガントで柔らかな質感があり、フロアでなくともリビングや携帯プレ…

Ricardo Villalobos / Max Loderbauer『Re: Ecm』(ECM)

Ricardo Villalobos とMax Loderbauerの二人がドイツの老舗ジャズ・レーベルの楽曲を使い再編したリミックス盤。制作にあたってECMからマルチ音源を貸与されなかったこともあり、原曲の雰囲気が色濃く残ることになった。静謐なジャズとミニマル・ダブの上品…

Panda Bear『Tomboy』(Paw Tracks)

前作から4年ぶりとなる3rdソロは、厚いリヴァーブの膜はそのままに過剰なループが廃され、よりソングライティングに重点が置かれた作品となった。深いアンビエンスの中で陶酔的なヴォーカル・ワークを堪能することができる。ソロやバンドの近作に見られた躁…

Oneohtrix Point Never『Replica』(Software・Mexican Summer)

『Returnal』やそれ以前の作品と地続きのイマジネイティブなシンセサウンドに、出所不明の謎のサンプリングを大胆に散りばめた作品。基底にあるのは抒情的なアンビエンスだが、サンプリングの奇妙な音色がそこに退廃的な雰囲気と軽妙なポップネスを加えてい…

Macintosh Plus『Floral shoppe』(Beer On The Rug)

「好きな音楽を選んで、一部分をループさせて、スローダウンして、そこにエコーをかける」という、Daniel Lopatinが『Chuck Person's Eccojams vol.1』で(「自分の好きな部分だけ聴きたい」という欲望に基づいて)試みた手法を、よりアンビエントな方向へ発…

Machinedrum『Room(s)』(Planet Mu)

当時のエレクトロニック・ミュージックにおける流行のサウンドを、驚異的なバランス感覚でひとまとめにした作品で、変な例えだが、BurialやFour Tet、LoneやFlying Lotusが集まってジュークを踊ろうとしているような感じである。既存の表現をうまくつなぎ合…

Leyland Kirby『Eager To Tear Apart The Stars』(History Always Favours The Winners)

抒情的なコードの響きとメロディーが美しいアンビエント作品。The Caretaker名義の作品では時間の経過(レコードに積もったチリ)を表現するために使われていたノイズが、ここでは空間の広がりを演出するために使われており、音の粒の細かさもあってまるで宇…

Julianna Barwick『The Magic Place』(Asthmatic Kitty)

自身の声を幾重にも重ね、教会音楽のように荘厳に響かせた実験的なアンビエント作品。ほぼボーカルのみで形作られたサウンドは単純に音として迫力があり、ヘッドホンなどで聴くと音が脳天を突き抜けて空に昇っていくかのような感覚を覚える。癒し系なイメー…

James Ferraro『Far Side Virtual』(Hippos In Tanks)

デジタルでクリアーな響きのサウンドと、快適だが人間味のない演奏・楽曲が特徴で、Daniel Lopatinによる『Chuck Person's Eccojams vol.1』と並んでヴェイパーウェイブの始祖と見なされる。サウンド的に不穏なところはないのだが、そのことが逆にリスナーの…

James Blake『James Blake』(Atlas・A&M)

ダブステップ以降のビートメイク・サウンドデザインが施された、折衷的で現代的なSSW作品。オートチューンに代表されるボーカルのデジタル処理も特徴的。本作で示されたサウンドは間違いなくポップミュージックの枠組みを広げたが、あまりに先鋭的だったため…

Grouper『A I A : Alien Observer/Dream Loss』(Yellow Electric)

サウンドが長く引き伸ばされドローン化したギターを用いた弾き語り作品。ギターのアタックは不明瞭になり、そのことが作品に幽玄な響きをもたらしている。二枚組で、『Alien Observer』の方がメロディアスで多少馴染みやすい。個人的にはGrouperの最高傑作。…

Girls『Father, Son, Holy Ghost』(True Panther Sounds)

1stでは50s~60sの伝統的なポップスを参照していたが、今回は少し時代を下り、70sのハードロック・プログレッシブロックを彷彿とさせる長尺で激しい曲が増え、その点が好みの分かれるポイントとなっている。しかし魔法がかかっているとしか思えないような珠…

The Field『Looping State of Mind』(Kompakt)

GASの深い霧の奥から響いてきているかのような幻惑的な音響と、テクノ由来の場を盛り上げることに特化した曲構造を組み合わせたThe Field。11年発表の3作目はそのタイトルが象徴するように、反復の持つ魅力を最大限に引き出した陶酔的なものになった。聴き手…