2010

七尾旅人『billion voices』(felicity)

『911FANTASIA』というコンセプチュアルな大作に続くアルバムで、バラエティ豊かな楽曲が詰め込まれている、全体に共通するような特徴はないが、代わりにいろんな層のリスナーに届きそうである。前半4曲の流れは完璧。「どんどん季節は流れて」「Rollin' Rol…

Tyler, The Creator『Bastard』(OFWGKTA)

おそらくシンセによる、まるで煙か雲のような柔らかい音色の持続音が特徴的な、ダウナーで催眠的なヒップホップ。タイラーのラップを除き、サウンド的にザラついたところが少なく、ベッドルームでも問題なく流せる。ATCQの5thと音楽性が似通っており、彼らが…

Sufjan Stevens『The Age of Adz』(Asthmatic Kitty)

過去作のトラディショナルで優しいサウンドはここでは脅迫的なエレクトロニクスに取って代わられ、歌われる内容もアメリカの歴史から自分自身についてのパラノイアックなものへと変化した。ただ楽曲のポップさだけが変わらずにリスナーを惹きつけ続けている…

Silvanian Families『Afterwars United』(Maltine)

アニメからサンプリングしたであろう音声をカットアップして大胆に使用しており、まさしくその点で好みが分かれるかもしれないが、楽曲のクオリティは非常に高い。#2「Good Morning, Sir」は盛り上がり必至のキラートラック。権利の問題で公式なリリースはな…

Pantha Du Prince『Black Noise』(Rough Trade)

清涼感のあるベルや鍵盤打楽器の響きを中心に据えた点描的なミニマルテクノ、というスタイルはRA誌で満点評価を獲得した前作『This Bliss』と地続きのものだが、レーベルつながりかインディー界隈のゲストを招いて製作された本作では、テクノから少しはみ出…

Mount Kimbie『Crooks & Lovers』(Hotflush)

ダブステップのドリーミーな発展形で、野田努いわく"ブリアルとBoards Of Canadaの溝を埋めようとしている"作品。Loneの作品と決定的に違うところはフロア向けでない点で、夕焼けの差し込むベッドルームが似合うサウンド。美しく、メランコリックなアルバム…

Lone『Emerald Fantasy Tracks』(Magicwire)

Boards Of Canadaに大きく影響を受けたドリーミーなエレクトロニカ・IDMを展開していたLoneがダンスフロアに急接近した作品。Flying Lotusに通じるビート感覚もあるが基本は四つ打ちで、ドリーミーな音色のコードで楽曲を展開させていく。終盤3曲の流れが素…

LCD Soundsystem『This Is Happening』(DFA)

ザラついた音色の、隙間を維持した緊張感のあるアンサンブルにキレ気味のボーカルが乗るという基本的な音楽性は前作と変わらない。驚きなのは(これも前作と同様だが)完成度の高さで、これ以上足せる音も引ける音もないといった具合である。James Murphyの…

Kanye West『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(Roc-A-Fella)

個人的に「一人ハリウッド」などと勝手に呼んだりしているカニエの、異常なエネルギーの籠った異常なスケールの作品。今後ポップミュージックでこれを超えるスケールの(しかもまとまりのある)作品が現れるかどうか。横綱級のヘビーさであり、最後まで聴き…

Joanna Newsom『Have One on Me』(Drag City)

三枚組の大作だが楽曲のクオリティは以前と同様もしくはそれ以上という驚くべき傑作。各楽器は中心となる歌を邪魔しないよう上品な落ち着きを保っており、それが本作を聴き疲れのしない作品にもしている。質・量ともに最高級のSSW作品で、長い時間をかけてで…

Four Tet『There Is Love In You』(Domino)

かつて「フォークトロニカ」と呼ばれたジャンルの中心にいた人物の10年作では、もはやその区分けの必要がないほどに、アコースティックな音とエレクトリックな音が自然に融合している。キュートで、人懐っこくて、キラキラしたサウンドはまるでカラフルな万…

Flying Lotus『Cosmogramma』(Warp)

ビートミュージックを下敷きに、ヒップホップやジャズ、エレクトロニカなど多彩な音楽性が高密度に詰め込まれた作品。アリス・コルトレーン(彼の血縁でもある)やサン・ラの作品に通じるようなスピリチュアルなフィーリングがある。

Deerhunter『Halcyon Digest』(4AD)

前作におけるまるで廃墟から鳴らされているかのようなゴーストリーな音響はそのままに、よりポップに、彩度を増した楽曲群が一枚のアルバムとして見事な調和を見せる4th。#2「Don't Cry」を筆頭に、2~3分でまとめられたポップ・ソングが宝石のような輝きを…

Beach House『Teen Dream』(Sub Pop)

ヴェルヴェッツ直系のシンプルなソングライティングが光る1st、そこからSSW的に楽曲を複雑深化させた2ndを経てたどり着いた3rdは、雪の結晶のように純化・洗練された楽曲と、対照的にスケールを増したサウンドが互いを引き立てあう、最高のドリームポップと…

Ariel Pink's Haunted Graffiti『Before Today』(4AD)

今までのアリエル・ピンクは目まぐるしく展開する楽曲が特徴だったが、その目まぐるしさの原因となっていた「個々のフレーズの繋ぎ」を滑らかにすることにより極上のポップ・アルバムが誕生した。もともと一つ一つのフレーズには光るものがあっただけに、今…