Macintosh Plus『Floral Shoppe』(Beer On The Rug)

VektroidのBOTRからの2作目。ノスタルジーを飛び越え、いよいよ意味不明な領域へと突入したアートワークと曲名が目を引く。内容は80~90年代のR&BAORをサンプリングし、ピッチを変えたりループさせたもの。ボーカル部分も普通にサンプリングして使っているが、大胆にスクリューされているために現実で聞くことのない気持ち悪い響きになっている(すべての音に濁点が付いているかのようだ)。しかし『Chuck Person's Eccojams vol.1』を生んだ「好きな部分だけ聴きたい」という思想がここではより忠実に実行されており……つまり全編が情感あふれるメロディーに満ちているのだ。それは「ECCOと悪寒ダイビング」のようなインストにおいても例外ではない。その上、どのメロディーもスロウダウンさせられたあげくに何度もループさせられて……過去にここまで押し付けがましいポップスが存在しただろうか。急に出てきてエンディング面する#10「Untitled」がいい例で、曲のおいしい部分だけを無限に繰り返して強引にアルバムのクライマックスを演出する。大小さまざまなループを駆使して脊髄反射的な反応を喚起する「花の専門店」のような例もあるが、基本的には過剰にドラマチックで強引な作風だ(ただアルバムの構成は練られている)。気持ち悪いが抗いがたいポップさと、一足飛びに「正解」にたどり着いてしまったかのようなアートワークを備えたヴェイパーウェイヴの金字塔。

(バージョンによっては#10「Untitled」(「月」とされることもある)ではなく「て」という2分弱の小曲でアルバムが終わることもある。不気味な編集の施されていない美しい曲で、聴き手を現実に戻す役割を担っている。どちらのエンディングも独特の余韻のあるすばらしいものとなっている。ちなみにPitchforkのレビューは「て」で終わるバージョンを基に書かれている。)