William Basinski『The Disintegration Loops I-IV』(2062)

アメリカのアーティストによる四部構成の作品で、2002年~2003年にかけて発表された。Basinskiは80年代に自らが録音したメランコリックで短いループを磁気テープからデジタル形式に変換しようとしたが、メディアの物理的な経年劣化により変換中に音源は徐々に崩壊していった。本作は「崩壊」という、あらゆる物事が避けることのできない事象をテーマに据えたコンセプチュアルなアンビエント作品であり、各楽曲は長い時間をかけてゆっくりとそのサウンドを劣化させていく。そして本作には印象的な背景がある。Basinskiが本作の録音を終えたのは米国同時多発テロ(9/11)の日の朝だったのだ。Basinskiは録り終えた本作を聴きながらワールドトレードセンターの崩壊を見守り、その日の日没時の1時間をビデオで撮影した(映像の静止画はジャケットに使われている)。映像とセットの作品であり、つまりテロと切っても切り離せない関係にあるのだが、サウンド面だけを見ても他に類を見ない儚い美しさがある。作品はテロの犠牲者に捧げられている。