Scott Walker『The Drift』(4AD)

アメリカのアーティストの11年ぶりのオリジナルアルバム。この音楽をどう形容すればいいのか。音楽ではあるがポップの文脈にはなく、これ以外のほとんどの作品に通用する感性や聴き方が本作には通用しない。Walkerが“blocks of sound"と呼ぶ手法で作られた楽曲には有機性がなくただ不安定で、それは積極的な恐怖よりもタチが悪い。脈絡のない前衛芸術で、集中したリスニングによりミクロなドラマを感じることも出来るが、それがプラセボ効果によるものでないという保障はない。いずれにしたところで聴き手がかける労力に見合った快感は本作からは得られない。気持ちよくなりたいなら素直に他の作品を聴くべきだ。しかし本作が圧倒的にユニークであることは事実であり、それはつまり聴き手が本作から得られるものも唯一無二であることを意味する(だからといってそれだけで本作が傑作扱いできるわけではない)。批評家は本作を高く評価するが、全人類が批評家になる必要はない。変な……では済まされない、「不快な」音楽を聴きたくなったときに聴くといい。