レーベルWerk Discsの主催者であるアメリカのプロデューサーのデビュー作。ローファイな質感の、抽象的な電子音楽。強引にジャンルに括るのならばテクノになるだろうが、別段ダンスフロアを志向しているわけではない。彩度の低い、ダメージ加工の施されたサウンドと感情の起伏に乏しい、しかしよく練られた楽曲が特徴。なにを目指しているのかがわからないサウンドはやや不気味だが、音の機能性だけが取り出されているようでもあり、そういう意味でアンビエント的に聴くこともできる。影響元もいまいち判然としないサウンドにはノスタルジーがない。「ポスト〇〇」というメタ化を繰り返した果てにあるような音楽のようにも思える。非常にユニークな作品だが、この時代にこの感性というのは、少し早すぎたと言わざるを得ない。しかしこの音楽がしっかりとフィットするような時代がこの先来るのかというと少し疑問である。時代と隔絶したところで鳴らされるオーパーツ的な作品。