Leyland Kirby『Sadly, The Future Is No Longer What It Was』(History Always Favours The Winners)

イギリスのアーティストの本名名義での1st。ピアノを中心とした幽玄で抒情的なアンビエント。サンプリングを主体としていたThe Caretaker名義とは異なり、全編に渡って本人の演奏をフィーチャーしている。CD3枚組の巨大な作品だが、音楽性には統一感があり、特に抒情的なムードと広い空間を感じさせる音響は作品全体に共通する特徴と言える。時間的・空間的な広さを活かして一音一音をゆったりと響かせる演奏スタイルは、聴いているとまるで広大な宇宙をふわふわと漂っているかのような気分になる。各楽曲は平均10分を超える長大さだが、上述のスタイルも相まって音楽的な密度は高くない。それは劇的な展開を求める聴き手にとっては欠点だが、音や雰囲気への没入を望む聴き手には美点として映るだろう。2011年にはこの路線を昇華させた、よりまとまりのある美しい傑作をモノにするのだが、内面世界の自由な探求がもたらした今作の広大な音世界も充分に魅力的だ。しかし、あれほど不気味な音楽を作っていたアーティストがこれほどストレートに抒情的な作品を作るとは…。