カナダはハミルトンのマルチメディアアーティストのBOTRデビュー。初期のJerry Paperを連想するようなひしゃげた音色のシンセと、約一小節で機敏に微妙に移り変わっていくコードが特徴で、コードに合わせてメロディーも常に展開しているため音楽的には非常に濃密。この「コードが機敏に展開するポップス」というスタイルは自分の最も好きなもののひとつで、古くはZappaやそこから繋がるカンタベリー周辺にブラジルのミナス音楽など、日本で言えばLampキリンジ冨田ラボ、アニメ・ゲーム方面なら田中秀和などがいて……という、こういうラインに連なる音楽性です。非常に細かで忙しないサンプリング遣いも特徴で、前述のひねくれた音色と合わせて子供じみた遊び心を感じる。比較的シンプルなリズムとどこまでもメロディー中心なプロダクションが聴きやすさを担保しているが、それでも相当に目まぐるしい音楽だ(#3「My Great Movie 01」のうねり続けるメロディーラインには唖然とさせられる)。しかしメロディー・楽曲ともに独自の美しさや魅力が確実にあり、それらは作品に繰り返し触れて音楽を身体に馴染ませるほどに強く感じられるようになるだろう。ガワだけ見れば奇妙だが音楽的には他に類を見ないほどに充実した傑作。