Girl Talk『Night Ripper』(Illegal Art)

アメリカのDJによる3作目。2 Many DJsなどが世に広めたマッシュアップという手法は本作でさらに突き詰められ、約40分の間に300以上ものサンプリングが入り乱れることに。その詰め込み具合は原曲の良さを残しながらできるギリギリのところまできている。1ループだけで切り替わることもザラなサンプリングの応酬は、快感の多くを元のフレーズのキャッチーさに依存しており、そこに有機的な音の快感はない。つまり「(楽曲の)構造がもたらす快感」がないのだ。それは楽曲をメタ的に利用するDJミックスであっても、そこに構造さえあれば自然と宿ってしまうものなのだが、本作はその種の快感が驚くほどに希薄である。再利用=繰り返しを許さない(する余裕がない)スタイルが原因だが、そのような音楽作品は世界的に見ても珍しいだろう。予感の発生しない本作の聴取にあたっては、聴き手のそれまでの音楽的経験はただノスタルジーの起点としてしか機能しない。音楽の表面的な快感「のみ」を抽出することに成功した稀有な作品で、体験としてはなにも考えずに眺めるだけのツイッターが近いかもしれない。