J Dilla『Donuts』(Stones Throw)

アメリカのヒップホッププロデューサーの2nd。ラフさと深さを兼ね備えたスリリングなインストヒップホップ。ほとんどの曲が1分前後の尺で、気が付くと次の曲へ移り変わっている。基本的にじっくりと時間をかけて盛り上がることはないが、それを構築美の欠如と取るかハイライトの連続と取るかは人による。散漫に感じられる部分もあるがうっとりするほど美しい瞬間もあり、例えば#8「The Diff'rence」~#10「Time: The Donut of the Heart」のメロディアスかつセンチメンタルな流れはアルバムのハイライトの一つだろう。終盤、ソウルフルでポップな#27「U-Love」に続く「Hi.」~「Bye.」(タイトルが印象的だ)の内省的な流れも非常に味わい深い。作品のほとんどが病院のベッドの上で、おそらく自身の死を身近に感じながら作られている。病気に苦しみつつも作品を完成させたことは間違いなく偉業だ。しかしそのような背景を抜いたところで本作の価値は揺るがない。繰り返し聴くに値する驚きに満ちた作品である。J Dillaは本作をリリースした三日後に亡くなっている。