Joanna Newsom『Ys』(Drag City)

アメリカのSSWの2nd。全5曲55分で、製作にはVan Dyke ParksSteve Albini,、Jim O'Rourkeが参加……この前情報の時点ですでに“事件”の様相を呈している。しかし期待に反してその内容は人を選ぶものとなった。問題はサウンドやパフォーマンスではなく楽曲だ。平均10分を超える楽曲は、The Fiery Furnacesのようにメインのメロディーが移り変わることはなく、ただ楽曲全体が引き延ばされたかのように同じメロディーが繰り返される。そして肝心のメロディーだが、それだけの反復に耐えうるだけの強度があるかというと微妙なところだ。端的に言えば冗長である。歌詞の意味をリアルタイムで取れれば印象も変わるのかもしれないが、そんなことは他のあらゆる作品にも言えるだろう。しかしその苦悩もアルバム前半までだ。#4「Only Skin」は約17分もある大曲だがあまり繰り返しがなく、メロディーがシームレスに移り変わっていく。それは先の見えない船旅のようなもので、険しいがスリリングだ。#5「Cosmia」は逆に最も短い(それでも7分ある)がドラマチックで、よく引き締まっている。あのすばらしい『Have One on Me』を経た耳では過渡期の作品に聴こえるが、それでもその吟遊詩人のようなスタイルはいまだユニークで、かつ圧倒的だ。長大で複雑な楽曲は時間を置いて繰り返し触れることでまるで千夜一夜物語のように徐々に魅力を増していくだろう。