Ricardo Villalobos『Fabric 36』(Fabric)

チリ人DJ/プロデューサーが自身の新曲のみで構成したDJミックス作品。実質的なオリジナルアルバムであり、有名なシリーズを隠れ蓑にする(もしくはフリーライドだ)手法は賛否を呼んだが、こんな暴挙が許されるのも彼が築いた「変人」のレッテルのおかげか。内容はエクスペリメンタルでパーカッシブなミニマルハウス。細かなリズムが聴き手を捕えて離さない序盤は文句なくすばらしいが、もはや意味不明な領域にまで突入する中盤(特に12分に及ぶ「Andruic & Japan」)は人を選ぶだろう。しかしそれを乗り越えれば朧気ながらメロディーが浮かんでくる。ハイライトは終盤の「Primer Encuentro Latino-Americano」で、聴き手はサッカースタジアムの熱狂に包まれ、わけが分からないながらもハイにさせられてしまう。全体としてグルーヴは最高級ながら、やはりどこまでも奇妙な印象の作品である。だが本作が未踏の地を開拓していることは事実。好奇心に溢れる聴き手なら問題なく楽しめるだろう。