Perfume Advert『Tulpa』(1080p)

(プレスリリース翻訳)


 イギリスはミドルズボローのデュオ、Perfume Advert (Aaron Turner とTom Brown) は、深く這うようなテクノの抽象性とザラザラした質感、サブリミナルでぼやけたシンセラインを組み合わせ、地平線上の蜃気楼のように漂って消えていく新しいハイブリッドなダンスソニックを創造している。彼らはこの7月の本当に暑いUKの夏に小さな町家の階上の小部屋で生まれ、汗ばんだ110BPMのハウスビートを使った初期の実験が『Tulpa』へとつながった。『Tulpa』——Slow-growingな狂ったハウスグルーヴをバックボーンとした、霞を崇拝するアンビエントテクノの9つの完全ライブ録音である。
 きめ細かなテクノとハウスへの一発勝負のアプローチ(ポストプロダクションをほとんど行わない)からは、現在ではおそらく「アウトサイダー・ハウス」として括られる暗くよどんだ記号が、ディープでアナログな暖かさとともに前進することを主張しているのがわかる。KORG ESX-1によるグルーヴをバックに、フィールドレコーディングの超厚い靄とノイジーな(しかし微妙にメロディックな)テクスチャー……リードトラックの「Lampers」と「Rotted Out」は、歪んだクラブグルーヴと同じく鮮やかなSF的想像力で揺らぐ。機械的なリズムは、J.G. BallardやH.P. Lovecraftのグロテスクな感性と同様に、ヘビーゲーマーのドリームスケープに基づくテープ全体の空想的な雰囲気を支えている。
 『Tulpa』は、Andy Stott、Basic House、Raime、Tim Hecker、Huerco S.などの超リアルな荒涼として傾いたダンスワールドを参考にしているが、Perfume Advertの鮮やかな非定形の世界から漏れ出す向精神的なムードは、明らかに2人の親友が細部までこだわり抜いた成果だ。短波ラジオAbleton、そして様々なエフェクトを使い、Tom Brownのドローンとテクスチャーは、わずか1ヶ月ほどのジャムで驚くほど自由にTurner のたるんだファンクとの境界線を越えていった。
 Turnerのソロ、霧に取り付かれた//Amaとしての作品は、明らかにイギリスのポスト・ダブステップの幽霊的なアプローチを取りながらも強いリズム感があり、Perfume Advertの抽象的で質感豊かなテクノから蠢き出す強力なグルーヴは、そこに充満する濁ったドリームスケープに決して埋没することがない。


ぼやけた音像のテクノ。適度な強度のビートで部屋でのリスニングにもフィットする。M/M『Midtown Direct』に通じる内容で(アートワークのモノクロなところも似通っている)、メンバーが後にATM名義でコラボすることにも頷ける。プレスリリースで挙げられた作家陣とは、たしかに「得体の知れない感じ」でリンクしてるのかもなと思う。#3「Sand Worm」は霞がかったテクスチャーはそのままに、よりダンスオリエンテッドな曲構造を備えたアンセム。それにしても10年代前半における電子音楽のローファイ化の流行の強さを感じる。ひとつ言えることは、電子音楽においてサウンドを汚すこと(=ローファイ化)は、音色の機能的にはよりアンビエントに近づくことを意味する、ということだ。そういう意味では、この流行はクラブとベッドルームの接近を示唆する側面があったのかもしれない。