TV on the Radio『Return to Cookie Mountain』(4AD/Interscope)

アメリカのバンドの2作目。複数のジャンルのスタイルを混ぜ合わせた熱狂的で混沌としたロック。そのカオスの一例として、オープニングトラックの「I Was a Lover」を挙げてみよう。ヒップホップのビートに妖しげなシタール、重厚なホーンのサンプリングとビームのようなエレクトリックノイズに轟音ギターの暴風雨が遠慮なく重ねられるサウンドは、聴き手を状況の掴めない戦場のただ中に放り込む。そして極めつけは“I was a lover, before this war...”と歌う悲痛な響きのボーカルだ。なにが起きているのか分からないが酷く印象的で、聴き手の感情に強く訴える。この馬鹿げた、それでいて感動的なサウンドは一体どのようにして生み出されたのだろうか? 一度冷静になろう。彼らの音楽は基本的には空間を黒く塗り潰すシューゲイザーサウンドと、ファンク、ドゥーワップ、ゴスペルなどの伝統的なアフリカン-アメリカンの音楽の組み合わせだ。しかしもちろんこれだけで全てが説明できるわけではない。David Bowieも惚れこむ艶やかで巨大な音楽は、20年代においてもまるでモノリスのように異様な存在感を持って屹立している。