Richie Hawtin『DE9 | Transitions』(M_nus/NovaMute)

カナダのDJ/プロデューサーのDJミックスシリーズの3作目。AbletonProToolsといったDAWを用いて素材となる複数のトラックを分解し、新たにひとつのトラックとして再構成したものを繋げた作品。ブックレットには使用された楽曲名が膨大な数記されているが、そのどれもが非常に細かく分解された上で使われているため判別は難しい。他人の楽曲を元にしながらもほとんどHawtinの新作としか聴こえない本作を果たしてDJミックス作品と呼んでいいものか、聴き手は頭を悩ませることになるだろう。そしてHawtinは大胆にも、再構成されたトラックに自ら新しいタイトルを付けている。一度に7つもの異なるトラックが鳴らされることもある本作では、従来通りに使用した楽曲名を並べていってはトラック名が長くなりすぎてしまう(Discogsの作品ページを一度覗いてみるといい)……という実際的な問題もあるのだが、ここには「ミックス作品にもオリジナリティは宿る」というHawtinのステイトメントが込められているように思う。音楽性について。シンプルなフレーズが幾重にも重ねられたミニマルテクノで、細かな襞のグルーヴが聴き手をがっちりとロックする。音の層の厚さは前作以前とは比べ物にならない。一音一音は丁寧にトリートメントされており、展開の滑らかさも相まって聴いた印象はかなりまろやかだ。過去最高に耳ざわりが良く、かつディープな作品で、どちらかと言えばリスニング向け。骨太でハードなものを好む向きには以前の作品を勧める。「ミックス」という手法が限界まで突き詰められた芸術品にして、膨大な熱量と労力のかけられた労作。本作以上に緻密なミックス作品はそうそう現れないだろう。